サンデーAI_2025.07.07|生成AIで雇用94,000人転換点
2025 年 7 月 7 日|発行:サンデーAI編集部
今週の生成AI NEWS
・州独自 AI 法案が続々成立──顔認証・自動雇用判定など分野別に規制を細分化
・欧州出版社連合、Google「AI Overviews」提訴で引用料モデルの再交渉へ
・テック業界の AI 起因レイオフ累計94,000 人──再就職市場は“AI 運用人材”にシフト
・Google、科学系 Gemini「AlphaGenome」ほか 4 大 API を同時リリース
・米上院、「AI モラトリアム修正」を撤回し歳出法案を可決──州の立法権を全面容認
今週は、規制・雇用・研究開発という 3 領域で“AI の地殻変動”が可視化 された。米国は連邦主導を諦め州法時代へ舵を切り、欧州ではメディア団体が検索 AI との対立を法廷に持ち込んだ。
一方、Google は生命科学向け API を公開し R&D のボトルネックを一気に短縮するなど、攻めのテクノロジーも加速。レイオフ統計は雇用構造を“削減と再配置”の同時進行フェーズに突入させたことを裏付けた。
今週のAIニュースダイジェスト(5件)
州独自 AI 法案が続々成立
カリフォルニア「Algorithmic Accountability Act」を皮切りに、コロラド・ニューヨーク・マサチューセッツなど 10 州超が顔認証のリアルタイム利用、HR における AI 審査、ターゲティング広告の未成年向け配信などを個別に規制・罰則化。
違反企業には年間売上比 4 % までの制裁金。各州は“早期立法でテック企業誘致”を掲げ、実質的に規制競争 が始まった。
ここがミソ!: 連邦ルールが存在しないまま州法だけが増殖すると、全国サービスを提供する企業は 1 つの SaaS で 50 通りの設定 を維持する羽目になる。州境越えユーザーデータの遮断や ML モデルのバージョン分割が新たなコスト要因となり、Reg‑Tech スタートアップとコンプライアンス自動化ツール が急成長する見込みだ。
欧州出版社連合、Google「AI Overviews」提訴
EU 圏の新聞・雑誌 32 社が「AI Overviews が記事を要約し読者を奪った」としてブリュッセル競争裁判所へ提訴。出版社側は表示 1,000 PV 当たり 0.08 € の補償を要求し、Google は「フェアユースかつクリック率向上」と反論。
EU デジタルサービス法 (DSA) の“非常に大規模オンラインプラットフォーム”要件を盾に追加制裁も視野。
ここがミソ!: 音楽ストリーミングで起きた“レベニューシェア交渉”がニュース業界でも再演へ。敗訴リスクを嫌うプラットフォーマーは 「AI オーバービュー地域限定停止」 という強硬策を取る可能性がある。そうなればユーザーは検索体験を失い、出版社は再び PV 競争に戻るジレンマに直面。
テック業界の AI 起因レイオフ 94,000 人到達
TrueUp データによると、2025 年上期に「生成 AI を導入して業務自動化した結果」として公表された解雇は 9.4 万人。内訳はカスタマーサポート 32 %、QA・テスト 24 %、バックオフィス 19 %、ローコード開発 11 % など。
対照的に LinkedIn 求人数は「LLM オペレーション」「データ倫理」などで前年比 +212 %。
ここがミソ!: “AI に奪われる職”と“AI を回す職”が同時増減 する入れ替え経済が顕在化。再就職プログラムに生成 AI ブートキャンプを組み込む企業が増えており、退職パッケージの中身すら AI スキルトレーニング費用へシフトしている。
Google、科学系 Gemini「AlphaGenome」ほか 4 API を公開
DeepMind が遺伝子変異の転写影響を 1 ショットで予測する AlphaGenome、分子構造最適化 GemMol、材料特性推定 MatSense、化学反応経路補完 RetroPath を Vertex AI 上で同時リリース。
製薬大手 3 社と大学 12 校が共同検証を開始し、初期報告で前臨床候補の絞り込みが 5 倍高速化 されたと発表。
ここがミソ!: 計算生物 × 生成 AI が「実験室でのパラメータ探索」をクラウド API に置き換え始めた。研究費の高い日本企業にとっては**外注せず“クリックでラボ”**を持つ選択肢となり、R&D 投資配分の再構築が迫られる。
米上院、「AI モラトリアム修正」を撤回し可決
歳出法案に盛り込まれていた「州による AI 規制を 5 年間凍結」条項が削除され、78 対 22 で可決。バイデン政権は「イノベーション阻害を避けるため州の柔軟性を支持」と声明。
ここがミソ!: 連邦一括規制の可能性が遠のき、テック業界は“州議会ロビー”を強化。規制アービトラージ(緩い州への拠点移転)と Cyber‑passport(州間コンプラ自動証明)の動きが活発化する。
注目トピック解説
注目トピック 1:科学 Gemini 拡充が示す“実験室ネイティブ AI”の夜明け

AlphaFold の衝撃から 4 年。Google は生命科学・材料科学向けに 「Gemini Science Suite」 を投入し、R&D のパラダイムを“Wet→Dry→Wet”から“Prompt→Dry→Wet”へ再定義した。
AlphaGenome の特徴は、ゲノム配列を 1 塩基単位で変更した際の転写影響を 数秒でスコアリング できる点だ。従来は CRISPR 実験・RNAseq を経て 2 週間以上要したステップが、クラウド API 呼び出し一回で済む。これにより創薬企業はターゲット探索段階で検体数を 90 % 削減しながら同等の成果を得られると試算される。
一方、GemMol と MatSense は分子動力学や第一原理計算を代替し、化合物の安定性・導電率などを即時推定。反応経路補完 API RetroPath は 100 万件超の実験データを学習し、収率 10 % 以上改善する合成ルートを自動提案する。これらを組み合わせると、スタートアップや大学研究室でも 「仮説→シミュレーション→実験」 のループを同日内に完結できる。
当然ながら “AI 依存のブラックボックス化” というリスクもある。予測誤差が実験コストを押し上げる可能性は無視できず、企業は“AI と実験の誤差補正ループ”を設計する必要がある。裏返せば、誤差を最小化する データ Curation/プロンプトエンジニアリング人材 が研究職と同等に重要になる。
「R&D 部門は“AI に一次スクリーニングを丸投げ→ヒット率の高い候補だけ Wet 実験”へ体制を切り替えるべきだ。PoC は自社データを 5 % 流し込んで精度を確認、ROI が立ったら残り 95 % を移行する“部分投入”が失敗しないコツ。」
「計算生物学と生成 AI が融合すると、研究の価値は“実験設備”ではなく“データ解釈能力”に移る。研究拠点が物理的に集積する必要が薄れ、地方大学や途上国ラボが世界的一線に躍り出る可能性すらある。」
注目トピック 2:AI レイオフ 94 k──“削減”と“再配置”が同時進行する雇用転換点

生成 AI を理由にした解雇が 10 万人規模に到達した事実は衝撃的だが、全体像は単純な“雇用喪失”ではない。
まず削減されたのは 「手順が明確・言語ベースで完結」 する業務だ。FAQ オペレーター、テストスクリプト作成者、ローコード開発者などが真っ先にリストラ対象になった一方、これらを統合運用する AI プラットフォーム管理者・プロンプトアーキテクト・倫理監査人 の求人は急増している。
再就職の最短ルートは “90 日リスキル” と呼ばれる短期ブートキャンプで、ChatGPT API・LangChain・VectorDB の 3 点セットを扱えるようになるカリキュラムが人気だ。大手テックは解雇とセットで受講費用を提供し「退職後 30 日以内に次の職を世話する」プログラムをアウトソースし始めている。
この動きは社会保険制度にも波及し、米カリフォルニア州は再就職を支援する教育費を失業給付の一部に置換する法案を検討中。企業にとっては “We fire, We train” がブランドの持続性を守る新しい労務戦略となる。
翻って日本企業が同様の雇用流動性を受け入れられるかは、競争力を左右する分水嶺となりかねない。
「リスキリングは魔法じゃない。90 日で変われるのは“学び直す覚悟がある人”だけだ。企業は解雇より前に“AI に代替されるリスト”を開示し、自主的な転身を促すべき。そうしないと 3 年後には“スキル空洞企業”とレッテルを貼られる。」
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