本記事を10秒でまとめると
OpenAIのサム・アルトマンCEOが社内に「コード・レッド(最高レベルの緊急事態)」を宣言。
Googleの新モデル「Gemini 3」が主要ベンチマークでChatGPTを凌駕し、月間ユーザー数でも急追する中、OpenAIは多角化戦略を凍結し、モデル性能の改善に全リソースを集中。対抗モデル「Garlic」を2026年初頭に投入予定だが、2030年までに2,070億ドルの資金不足という深刻な財務課題も浮上。
生成AI市場は「先行者優位」が通用しない新たな競争フェーズへ突入した。
なぜ今このテーマが注目されるのか
2022年11月、ChatGPTの衝撃的な登場でGoogle経営陣が「コード・レッド」を発令したのは、わずか3年前のことです。当時、検索市場の絶対王者だったGoogleは、創業者のラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンを呼び戻し、全社的なAIシフトを断行しました。
それから3年。今度は立場が完全に逆転しました。
2025年12月2日、OpenAIのサム・アルトマンCEOが従業員に送った内部メモで、同社として初めて「コード・レッド」を宣言したのです。The Wall Street Journal、Fortune、AP通信など主要メディアが一斉に報じたこのニュースは、AI業界に激震を走らせました。

何が起きたのか。答えは明確です——Googleの逆襲が成功したのです。
2025年11月18日にリリースされたGoogleの最新モデル「Gemini 3」は、主要なAIベンチマークでOpenAIの「GPT-5.1」を圧倒。業界で最も権威あるLMArenaリーダーボードでは、史上初めて1500の壁を超える1501 Eloスコアを記録し、首位に立ちました。
さらに衝撃的だったのは、ユーザーの動きです。Geminiアプリの月間アクティブユーザーは6.5億人(2025年10月時点)に達し、ChatGPTの週間8億人(月換算で約30億人)に急速に迫っています。
この逆転劇が意味するのは、生成AI市場が「先行者優位」だけでは勝てない、本質的な技術力と資本力が問われる新たなフェーズに入ったということです。
そして今、OpenAIは二重の危機に直面しています。一つは技術的な遅れ。もう一つは、HSBCアナリストが試算した2030年までに2,070億ドル(約31兆円)の資金不足という、深刻な財務問題です。
この記事では、OpenAIの「コード・レッド」の全貌と、それが私たちのビジネスに何を意味するのかを、最新の情報をもとに徹底解説します。
OpenAI「コード・レッド」は本当に起きたのか
まず、最も重要な事実確認から始めましょう。OpenAIの「コード・レッド」は、単なる噂ではありません。
2025年12月2日(月)、サム・アルトマンCEOが全従業員に送った内部メモで、正式に「コード・レッド」を宣言したことが、複数の信頼できる報道機関によって確認されています。
主要な報道ソース:
- The Wall Street Journal(2025年12月2日付)
- Fortune(2025年12月2日付)
- AP通信(2025年12月2日付)
- Reuters(2025年12月2日付)
アルトマンのメモには、以下の内容が含まれていました:
「これはChatGPTにとって重大な局面(Critical moment)だ。私たちは一時的な経済的逆風(Temporary economic headwinds)と厳しい雰囲気(Rough vibes)を覚悟しなければならない」
OpenAIは通常、危機レベルに応じて「イエロー」「オレンジ」「レッド」のコードを使用していますが、今回発令されたのは最上位の「コード・レッド」——つまり、会社の存続に関わる最高レベルの警報です。
Googleの逆襲
OpenAIを追い詰めたのは、Googleが2025年11月18日にリリースした「Gemini 3」の圧倒的な性能です。
数字が証明する性能差
主要なAIベンチマークにおいて、Gemini 3はGPT-5.1を明確に上回る結果を出しています。
【ベンチマーク比較表】
出典:Google Blog “A new era of intelligence with Gemini 3”
特に注目すべきはHumanity’s Last Examの結果です。これは物理学、生物学、化学などの専門分野で、PhD保持者でも苦戦する超高難度のベンチマークです。Gemini 3が37.5%を記録したのに対し、GPT-5.1は26.5%——約11ポイントの差は、専門家レベルのタスクで決定的な性能差があることを意味します。
ユーザーが語る真実
ベンチマークスコア以上に深刻なのが、ユーザーの動向です。
【Gemini vs ChatGPTのユーザー数推移(2025年7月〜10月)】

出典:Google CEO Sundar Pichai発表(2025年10月29日)、Sam Altman発表(2025年7月)
月間ユーザーで比較すると、Geminiの6.5億人に対し、ChatGPTは週間8億人(月間換算で約30億人)とまだ優位にあります。しかし、Geminiの成長率が異常です。わずか3ヶ月で44%増——このペースが続けば、2026年中にユーザー数で逆転する可能性があります。
さらに、Redditなどでは「Gemini 3リリース後の2週間でChatGPTの日次アクティブユーザーが約6%減少した」との非公式データも報告されており、OpenAIにとって看過できない「ユーザー流出」が始まっている兆候があります。
なぜGemini 3は強いのか?
Gemini 3の強さは、3つのブレイクスルーにあります。
- ネイティブ・マルチモーダル設計
従来のモデルが「テキストモデルに画像処理を後付け」していたのに対し、Gemini 3は最初からテキスト、画像、音声、動画、コードを単一のアーキテクチャで統合処理。情報の損失がなく、シームレスな理解が可能。
- Deep Think(深い思考)モード
回答を出力する前に、モデルが内部で推論プロセスを巡らせる「思考時間」を確保。数学、科学、コーディングといった論理的整合性が求められるタスクで劇的な性能向上。
- 100万トークンのコンテキストウィンドウ
長大なドキュメントやコードベース全体を一度に理解できる能力。大規模なプロジェクトの全体把握において圧倒的に有利。
ChatGPTに限らず、このブレイクスルーに対応しない限りGemini3を超えるのは難しいのが現状です。
OpenAIの対抗策――「Garlic」と組織改革の全貌
OpenAIはこのまま甘んじることなく、強力な反撃を準備しています。
秘密兵器「Garlic」
報道によれば、OpenAIは内部コードネーム「Garlic(ガーリック)」と呼ばれる新しい大規模言語モデルの開発を加速させています。
【Garlicの特徴】
- 位置づけ: Gemini 3およびAnthropicのOpus 4.5に直接対抗
- リリース予定: 2026年初頭(GPT-5.2またはGPT-5.5として)
- 技術的特徴: 「より小さなモデルサイズに、同等の知識量を凝縮する」技術により、推論コストを抑えつつGPT-4.5クラスの性能を実現
- 内部評価: コーディングと推論タスクで、社内ベンチマークにおいてGemini 3を上回る成果
出典:The Information “OpenAI Developing ‘Garlic’ Model to Counter Google’s Recent Gains”(2025年12月2日)
OpenAIのチーフ・リサーチ・オフィサー、マーク・チェンは、Garlicが「特にコーディングと推論において、Gemini 3を超える性能を示している」と社内で報告しているとされます。
全社的なリソース再配分
「コード・レッド」の下、OpenAIは組織の優先順位を劇的に変更しました。
優先される3つの領域:
- 推論能力(Reasoning)の強化 – 競合に劣後している論理的思考能力の向上
- 信頼性とスピードの改善 – エラー率の低減とレスポンス速度の向上
- パーソナライゼーション – ユーザー個別の文脈理解の深化
凍結・延期されたプロジェクト:
- Pulse(パーソナルアシスタント機能) – 毎朝のブリーフィング、状況に応じたリマインド機能
- Operator(自律型AIエージェント) – Webブラウザを操作し、旅行予約やコーディングを自律的に行う機能(2025年1月リリース予定だった)
- 広告事業およびEコマース連携 – 収益化の多様化施策
これらのプロジェクトは、いずれもOpenAIの将来の成長エンジンと目されていたものです。その凍結は、「今はそれどころではない」という切迫した危機感の表れです。
ChatGPTの品質改善チームは日次ミーティングを実施し、進捗をマイクロレベルで管理する「戦時体制」に移行。他部署からのエンジニアの一時異動も推奨され、全社一丸となって基盤モデルの改善にあたっています。
数字が語る深刻さ――2,070億ドルの資金ギャップ
技術的な遅れ以上に深刻なのが、財務面の課題です。
HSBCアナリストの衝撃的な試算
2025年11月26日、HSBCグローバル・インベストメント・リサーチが発表したレポートは、OpenAIの財務状況に厳しい見通しを示しました。
【OpenAIの累積フリーキャッシュフロー予測(2025-2030年)】


HSBCの主な予測:
- 2030年までの累積フリーキャッシュフロー: マイナス(依然として赤字)
- 必要な追加資金: 2,070億ドル(約31兆円)
- データセンター・コンピューティングコスト: 2025年末〜2030年で7,920億ドル
- 2030年の予測収益: 2,130億ドル(それでも追いつかない)
出典:Fortune(2025年11月26日)、Financial Times Alphaville(2025年11月25日)
HSBCのレポートは、OpenAIがMicrosoftとの2,500億ドル規模の契約、Amazonとの380億ドルの契約など、巨額のクラウド契約を結んでいるものの、これらの支払いを賄うだけの収益モデルが確立していないと指摘しています。
GoogleとOpenAIのインフラ格差
この競争において、Googleは圧倒的に有利な立場にあります。Googleは自社設計のAIチップ(TPU)を持ち、データセンターを自社保有し、検索広告事業から得られる莫大なキャッシュフローをAI投資に回すことができる「自給自足」の体制が整っています。
一方、OpenAIは計算資源をMicrosoft(Azure)やOracleに依存しており、マージンを支払う必要があります。実際、Oracleの株価がOpenAIへの過度な依存を懸念して下落した事例も報告されており、OpenAIの信用リスクが市場で意識され始めています。
私たちはどう備えるべきか――実務への3つの示唆
この「コード・レッド」が、私たちのビジネスに何を意味するのか。3つの実務的な示唆を提示します。
示唆1: 「OpenAI一択」の時代の終了
少なくない企業が「生成AI = ChatGPT」という前提で戦略を組んできました。ChatGPTでなくてもMicrosoft環境のため「生成AI = Copilot」という方もいるかもしれませんが中身はClaudeも含まれていますがChatGPTです。しかし、その前提はもはや通用しません。
今すぐすべきこと:
- 主要業務で使用しているAIツールの「マルチベンダー戦略」を検討
- Gemini、Claude、その他のモデルとの性能比較を実施
- 特定のモデルに依存しすぎていないか、リスク評価を実施
Salesforceのマーク・ベニオフCEOが「Gemini 3への完全移行」を公言したように、エンタープライズ市場でも「乗り換え」が現実に起きています。
示唆2: ベンチマークスコアと実用性は別物
Gemini 3がベンチマークで圧勝したからといって、すべての業務で最適とは限りません。
重要なのは:
- 自社の具体的なユースケースでの検証
- 日本語処理能力、業界特有の専門用語への対応
- API統合の容易さ、コスト、レスポンス速度
「ベンチマークで勝った方」ではなく、「自社のタスクで実際に成果を出せる方」を選ぶべきです。
示唆3: 2026年の「Garlic」登場を見据えた準備
OpenAIの反撃モデル「Garlic」が2026年初頭にリリースされれば、再び形勢が逆転する可能性があります。
準備すべきこと:
- 現在のAIツール契約を、柔軟に乗り換えられる条件にしておく
- 2026年Q1〜Q2のモデル更新タイミングで、再評価のスケジュールを確保
- 「今最強のモデル」に固執せず、「常に最適なモデルに切り替えられる体制」を構築
余談:Appleの動向
生成AIの開発が競合に比べて出遅れているApple社も12月1日に生成AI開発トップのジョン・ジャナンドレア氏が上級副社長を辞任し、2026年春に退社すると発表しています。開発で出遅れが目立つ中、組織再編で巻き返しを図ることが目的です。
24年10月に提供を始めた自社開発の生成AI「アップルインテリジェンス」は性能や機能が見劣りすると指摘されており、生成AI界隈ではもはや話題に上がらないのが現状。Siriの機能をAIで高める開発計画も当初予定から遅れ、展開は26年になっています。
米ブルームバーグ通信は11月に、AppleがSiri向けにGeminiの採用を計画していると報じています。Appleは対価としてGoogleに対し、年間10億ドル(約1550億円)を支払う方向で協議している模様。
つまり、自社開発モデルの性能が向上せず、他社製の採用を検討せざるを得ない状況に陥ってしまっています。言い換えると、生成AIの基盤モデル対決から実質リタイアしたことになります。
まとめ
OpenAIの「コード・レッド」は、OpenAI社が牽引してきた生成AIブームの第1幕が終わり、より厳しい競争の第2幕の開幕といえます。
先行者利益だけで逃げ切ることはもはや不可能であることが証明され、OpenAIは「スタートアップとしての俊敏性」と「巨大テック企業との体力勝負」の両立を迫られています。
サム・アルトマンの決断は、多角化による「広がり」を捨て、知能の深化による「高さ」を追求する賭けです。この戦略的ピボットが成功するか否かは、近い将来リリースされる「Garlic」の真価によって明らかになるでしょう。
しかし、私たちビジネスパーソンにとって本質的に重要なのは、「どのモデルが勝つか」ではありません。
本当に問うべきは:
- 私たちは生成AIで、どんな価値を生み出しているか?
- ツールの乗り換えに耐えうる、本質的なAI活用スキルを身につけているか?
- 生成AIを「魔法の道具」ではなく、「協働するパートナー」として使いこなせているか?
OpenAIとGoogleの覇権争いの勝者に頼り切ることではなく、「最強のツールを使いこなす力」を磨くことの重要性です。
勝者がどちらになろうとも、その競争から最大の恩恵を受けるのは、ツールに振り回されず、本質的な価値創造を速やかに実行できる組織と個人なのです。
writer:宮﨑 佑太(生成AIアドバイザー)
※1 The Wall Street Journal “OpenAI’s Altman Declares ‘Code Red’ to Improve ChatGPT as Google Threatens AI Lead”
※2 Fortune “Sam Altman declares ‘Code Red’ as Google’s Gemini surges”
※3 The Information “OpenAI Developing ‘Garlic’ Model to Counter Google’s Recent Gains”
※4 Fortune “OpenAI won’t make money by 2030 and still needs to come up with another $200 billion”
※5 Google Blog “A new era of intelligence with Gemini 3”
※6 Business Insider “OpenAI’s ChatGPT 5.1 Versus Google’s Gemini 3: How They Compare”
