サンデーAI_2025.10.06|生成AIと社会ルールの新時代
2025年10月6日|発行:サンデーAI編集部
今週の生成AI NEWS
- NVIDIA、次世代AIチップ「Blackwell B200」を発表
- Google、Geminiに「マルチモーダル・スライド生成機能」を追加
- OpenAI、AI安全性を評価する新ベンチマーク「SafetyEval 2.0」を公開
- Perplexity、学術論文特化の検索エンジン「Perplexity Scholar」を開始
- Google、広告プラットフォームに「AIクリエイティブ自動生成機能」を本格導入
今週は、生成AIが専門家のツールから「ビジネスパーソンの日常業務ツール」へ、そして国家間の「統治(ガバナンス)の対象」へと、その役割を大きく変えた一週間でした。
MicrosoftがExcelという最も普遍的なビジネスソフトにAIアナリストを搭載したことは、その象徴です。同時に、Googleはスライド作成や広告クリエイティブ制作を自動化し、ホワイトカラーの生産性革命を加速。
技術基盤ではNVIDIAが次世代チップで独走を続け、専門領域ではPerplexityが学術界という高信頼性が求められる市場を開拓しています。
一方で、OpenAIが安全性の新基準を、OECDが国家間の比較報告書を公表したことは、技術の社会実装が本格化する中で「いかにAIを制御し、信頼を担保するか」という課題が、国際的な最重要アジェンダになったことを示しています。
生成AIはもはや技術論争ではなく、ビジネスと社会のルール作りの段階に入りました。
今週のAIニュースダイジェスト(5件)
NVIDIA、次世代AIチップ「Blackwell B200」を発表
現行のH200に比べ、推論性能が最大3倍向上し、エネルギー効率も40%改善。データセンターの運用コストを大幅に削減し、計算基盤におけるリーダーシップをさらに盤石にする。
ここがミソ!:性能向上はもちろん、エネルギー効率の大幅改善が核心。生成AIの普及に伴い爆増する電力消費と運用コストという物理的制約に対し、NVIDIAがハードウェアで解を提示。生成AIの持続可能性は彼らのチップにかかっている。
Google、Geminiに「マルチモーダル・スライド生成機能」を追加
テキストで概要を指示するだけで、内容に合った画像やグラフをGeminiが自動生成し、Googleスライド形式で出力。企画書やプレゼン資料のドラフト作成にかかる時間を劇的に短縮する。
ここがミソ!:「考える」だけでなく「形にする」作業の自動化。これまで人間に残されていた構成・デザインというクリエイティブ業務にGeminiが本格参入し、ビジネスコミュニケーションの速度が一段階上がる。
OpenAI、生成AIの安全性を評価する新たなベンチマーク「SafetyEval 2.0」を公開
生成AIが有害コンテンツを生成するリスクや、巧妙な悪用シナリオへの耐性を測定するための評価基準を刷新。モデルの能力競争から「安全性の競争」へと業界の軸足を移す狙いがある。
ここがミソ!:自社のモデルを評価する「モノサシ」自体を自ら定義し、公開することで、生成AIの安全性に関する議論の主導権を握る戦略。これは、技術力だけでなく倫理観や信頼性こそが今後の競争優位になるとの宣言だ。
Perplexity、学術論文の検索・要約に特化した「Perplexity Scholar」を開始
査読付きの学術論文や研究データのみを検索対象とし、信頼性の高い情報源から回答を生成。研究者や学生の情報収集の質と速度を向上させ、専門領域での地位を確立する。
ここがミソ!:「何でも答える生成AI」から「正確なことだけを答える生成AI」への市場分化の始まり。情報の信頼性が価値となる専門分野では、汎用モデルより特化型モデルが覇権を握る可能性を示す事例だ。
Google、広告プラットフォームに「AIクリエイティブ自動生成機能」を本格導入
広告主が製品情報とターゲット層を指定するだけで、AIが広告文、バナー画像、さらには短い動画広告まで複数パターンを自動で生成。ABテストを大規模に自動化する。
ここがミソ!:マーケターの経験と勘に頼っていたクリエイティブ制作をデータドリブンで自動化。広告代理店のビジネスモデルや、マーケティング部門の役割そのものを根底から揺るがす破壊的イノベーション。
注目トピック解説
トピック1:Microsoft Excelに「AIデータアナリスト機能」搭載──全ビジネスパーソンが“アナリスト”になる日

Microsoftは、表計算ソフトExcelに、複雑なデータをCopilotが自動で分析し、重要な傾向やインサイトを自然言語で要約・可視化する「AIデータアナリスト機能」を標準搭載すると発表した。
ユーザーは、売上データや顧客リストなどのスプレッドシートを開き、「どの商品の利益率が最も高い?」「地域別の売上トレンドをグラフにして」と質問するだけで、Copilotがピボットテーブルやグラフを自動生成し、分析結果を提示する。
これは、これまでデータサイエンティストや一部の熟練したExcelユーザーしか行えなかった高度なデータ分析を、全てのビジネスパーソンに開放することを意味する。専門的な関数や操作を知らなくても、対話形式でデータから示唆を得られるようになるため、データに基づいた意思決定の速度と質が飛躍的に向上する可能性がある。
この機能の登場により、「データ分析」は専門職のスキルから、Wordで文章を書くのと同じくらい当たり前のビジネススキルへと変化していく。企業の競争力は、いかに多くの従業員がこのAI機能を使いこなし、日々の業務改善に繋げられるかにかかっている。
「これは『BIツールの終焉』の始まりかもしれません。TableauやPower BIといった専門ツールが担ってきた役割を、最も普及しているExcelが飲み込み始めた。データ分析の民主化は、同時に専門職の価値を問い直します。これからのデータアナリストは、単にデータを可視化するだけでなく、生成AIが提示したインサイトをどう事業戦略に結びつけるかという『解釈力』と『実行力』で差別化する必要があるでしょう。」
「経営者は今すぐ全社員にこの機能の利用を義務付けるべきです。まずは営業部門で週次の売上報告を、マーケティング部門でキャンペーン結果の分析を生成AIにやらせてみる。そこで削減できたレポーティング作成時間を、顧客との対話や次の戦略立案にどれだけ再配分できたかをKPIとして計測してみるのはいかがでしょうか。これはツールの話ではなく、組織全体の時間配分を変革する『生産性革命』の起爆剤です。」
トピック2:OECD、AIガバナンス報告書を公表──“ルール無き競争”は終わるか

経済協力開発機構(OECD)は、加盟国におけるAIへの取り組みと統治(ガバナンス)の状況を比較・分析した初の包括的な報告書を公表した。
報告書は、多くの国でAI技術への投資や導入は加速している一方で、リスク管理や倫理原則を具体化する法整備が技術の進展に追いついていない「ガバナンス・ギャップ」が存在すると明確に指摘した。
特に、国によってプライバシー保護、アルゴリズムの透明性、責任の所在に関する規制のレベルが大きく異なっており、このままではグローバルに事業を展開する企業が各国の異なる規制に対応できず、イノベーションが阻害されるリスクがあると警告。その上で、国際的に整合性のとれたAIガバナンスの枠組みを構築するための議論を加速させるべきだと提言した。
この報告書は、これまで各国の自主性に委ねられてきたAIのルール作りが、国際的な協調と標準化を目指す新たなフェーズに入ったことを示すものであり、今後の世界的なAI規制の議論における重要な出発点となる。
「机上の空論だ。OECDがどれだけ立派な報告書を出したところで、結局は各国のエゴがぶつかり合うだけ。『国際協調』という聞こえの良い言葉の裏で、自国企業に有利なルールを作ろうとするロビー活動が繰り広げられるに決まっている。AIの本当のルールは、次にどこかで大規模なシステム障害や情報漏洩が起きた時、その原因を作った国の企業が国際社会からどう断罪されるかによって、血をもって書かれることになるだろう。」