本記事を10秒でまとめると
・MetaによってManus買収が発表されたが、これは単なるAIスタートアップ買収では留まらずGensparkやOpenAI、Googleとの競争構造にまで影響を及ぼす可能性が高い。2026年の主戦場は価値前提と浸透力となる背景と市場の予測、そしてビジネスパーソンのすべきことをまとめる。
Manusとは何か
Manusは、中国初の「タスクを最後まで実行するAIエージェント」を志向して設計されたプロダクトです。調査、情報整理、資料作成、外部ツール操作といった一連の業務を、ユーザーの指示を起点に自律的に進める点が特徴です。
AIエージェント元年である2025年において、Gensparkと並ぶ“汎用AIエージェント”の代表例として急速に注目を集めていました。実際に今年の年間計上収益は約195億円に達しています。
今回の報道の内容とは
2025年12月30日FacebookやInstagram等を運営するMetaがManusを買収したことが、主要メディアによって報じられました。買収金額は公式には非公開ですが、数十億ドル規模と推定されています。
また、買収後はManusの技術をMeta AIなどの自社プロダクト群に統合していく方針が示唆されています。あわせて、Manusが持つ中国ルーツに関する地政学的リスクについては、事業・資本構造の整理を行う姿勢も伝えられています。
なぜMetaは「今」Manusを買ったのか
Metaはすでに大規模言語モデル(Llama)と、WhatsApp・Instagram・Facebookという圧倒的な基盤を持っています。一方でGoogle(Alphabet)、Apple、Microsoft、Amazonと並びビッグファイブと称される企業でありながら「AIエージェント」は内製できていませんでした。
以前よりMetaはOpen AIやビッグファイブに対抗するため、積極的な支出を続けておりCEOのマーク・ザッカーバーグ氏は今後3年間で6000億ドルを投じると表明しており、その多くがAI関連になると予測されていました。
Metaは旧Facebook社の頃から複数の企業を買収・合併して成長を続けており、代表的な大規模買収としてはInstagramが挙げられます。
以上の背景からも今後の生成AI時代においては“モデル”ではなく“実行エンジン”を有するかどうかが問われると予測したからこそ、ManusはMetaの弱点を最短距離で補完できる存在だったと考え買収に乗り出したと考えられます。今回の買収は、技術力そのものよりも「どの体験を、どの場所で提供するか」を重視したとも言えるでしょう。
技術競争からプラットフォーム戦争へ
2025年末にGoogleのGemini 3 ProやOpen AIのGPT-5.2 Proが登場したことで生成AI競争の本質は、「最も賢いAIはどれか」ではなく、「最初から使われているAIはどれか / プラットフォームとして浸透するAIはどれか」に移りつつあり、2026年はこの流れが加速すると予測されます。Metaは“選ばせるAI”ではなく、“気づいたら使っているAI”を狙っているという視点に立つと、今回の買収は自然な一手として理解できるのではないでしょうか。
2026年の展望予測
今まで中国ルーツに関する地政学的リスクのためビジネスシーンに影響を与えきれなかったManusですが、Metaの買収により大きな変化が生じます。ここでは、いくつかの切り口から2026年の展望をシナリオごとに予測します。
VS Genspark
MetaによるManus買収によって、直接一番影響が生じるのはGensparkであることは間違いありません。
2025年AIエージェント業界を牽引してきたManusとGensparkの勝敗は、どの価値前提を市場が評価するかによって大きく分岐します。
第一は「プラットフォーマーが最大の正義になる」価値前提です。
この前提が成立した場合、Meta傘下に入ったManusは圧倒的に有利になります。WhatsAppやInstagramといった日常的に使われるアプリの内部に、実行型エージェントが半ば標準機能として組み込まれれば、ユーザーは比較検討を行う前にManus的体験に触れることになります。このシナリオでは、Gensparkはプロダクトの完成度に関係なく、入口の段階で不利な立場に立たされる可能性が高く、Metaが目論む未来はこの延長線上である可能性が高いです。
第二は「AIエージェントは業務基盤として“選定されるもの”である」価値前提です。
この場合、状況は大きく変わります。企業利用では、権限管理、監査ログ、データ境界、既存SaaSとの統合といった要素が重視されやすく、Metaのコンシューマー起点の強さがそのまま武器になるとは限りません。このシナリオでは、Gensparkが掲げるAI-native workspaceという立ち位置が意味を持ち、特定業務に深く入り込むことで存在感を保つ余地があります。
第三は、MetaがManusを「完全な標準機能」にせず、ブランドと課金モデルをある程度維持する場合です。
この場合、市場は二層化し、日常的・軽量なタスクはMeta×Manusが担い、より重い業務や組織的な仕事はGensparkのような専用ワークスペースが担う構図が成立する可能性があります。この世界では、両者は正面衝突というよりも、役割分担に近い関係になるでしょう。
重要なのは、Gensparkの勝ち筋は一貫して「汎用エージェント競争」にはない点と言えます。2026年に生き残るためには、どの業務を、どの深さで支配できるかを明確に定義し、Metaが入り込みにくい領域を自ら選び取る必要があでしょう。価値前提の選択を誤れば、優れたプロダクトであっても埋没するリスクが極めて高い状況です。
VS OpenAI・Google
Meta×Manusの動きは、Gensparkだけに限らず、OpenAIやGoogleとの競争を激化させる可能ではどうでしょうか?結論としては、競争レイヤーを分離させる方向に作用する可能性が高いと言えます。
OpenAIは、「最高性能のモデルを、誰でも使える形で提供すること」に価値を置いています。エージェントであっても、それは完成品というより“構成可能な部品”として扱われ、企業や開発者が自ら設計・統合することが前提になります。ここでは、柔軟性と拡張性が評価軸となり、導入の手軽さよりもカスタマイズ性が重視されます。
Googleはモデル競争を繰り広げつつも、検索やWorkspaceといった既存業務の延長線上にAIを組み込み、「仕事のやり方を変えずにGeminiを浸透させる」ことを価値としてきました。2026年に向けては、エージェント的機能が明示的に意識されない形で業務に溶け込み、ユーザーがAIを使っていることすら意識しなくなる方向に進めようとしている可能性が高いです。
その中でMetaが狙うとするならば、「業務基盤」でも「開発基盤」でもなく、「人が最も長い時間を過ごすコミュニケーション空間」ではないでしょうか。ここにManusの実行能力を重ねることで、仕事と日常の境界そのものを曖昧にし、AIが介在することへの心理的ハードルを極限まで下げようとしてくるかもしれません。
もちろん、MetaがGoogleやMicrosoftの土壌に直接挑めば別ですが、今の時点で2026年の競争は、三者が同じ土俵で殴り合う形にはなりにくく、OpenAIは“作り込むAI”、Googleは“既存業務に溶けるAI”、Metaは“日常の延長で仕事を進めてしまうAI”という価値前提の違いが、結果として棲み分けを生む可能性が高いと考えます。この違いを理解せずに、単純な性能比較や流行語だけで判断すると、戦略を誤る危険性が高まるでしょう。
ビジネスパーソンに求められること
重要なのは、2025年と変わらずどの生成AIを使うかではなく、「どの業務を、どこまで生成AIに任せ、どこに人の責任を残すか」を設計できているかです。エージェント時代の準備とは、業務プロセスそのものの再定義に他なりません。
つまり、現状多くの日本企業において最初の分岐はMicrosoftのCopilot環境またはGoogleのGoogle Workspace環境(Gemini)どちらの環境で既存業務を行うのか、その中でどの業務を生成AIに任せるのかという判断からになります。間違ってもこの報道を元にMetaの動きを見てから判断しようと先延ばしにすると今以上先進企業から遅れをとり挽回不可能な差が生じ得ます。この延長線上にしか、どのようなワークフローを構築するか、AIエージェントを利用するかという議論は生じません。
まとめ
Meta×Manusの買収は、エージェント時代の本格的な幕開けを告げる出来事ではありますが、我々の日常を大きく揺るがす事態にはならない可能性が高いです。
もちろん、ビッグファイブにしか思いつかない戦略や発想、技術進歩によりこれらの前提が崩れる可能性は0ではありませんが、「2026年の勝者は最も高性能なAIではなく、最も自然に業務に溶け込んだAIになる」という構造を理解し前提として意思決定していくのが現状最も生成AI時代にあった振る舞いであると言えるでしょう。
writer:宮﨑 佑太(生成AIアドバイザー)

